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名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)3783号 判決 1971年4月06日

原告

東起町町内会

右代表者会長

岩室長重

代理人

竹下重人

被告

服部勝正

代理人

鈴村金一

主文

別紙目録記載の土地は原告の総有であることを確認する。原告が別紙目録記載の土地を処分したときは、被告はその処分に即応する登記手続をなすべき義務があることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、もと名古屋市南区東起町(現在名古屋市中川区東起町)内に居住する個人世帯全員をもつて構成された部落会であり、同時に町内の氏神である白山神社の氏子会である。原告は毎年一月上旬に定例総会を開催し、その総会において会長副会長各一名および役員数名を選出し、従来からの慣例もしくは総会の決議に従つて町内公共施設の維持、管理、白山神社の祭事の執行その他町内共同生活の福祉の向上のための行事を行うことを目的としている。

原告の右目的のための経費は町内会費の徴収および後記共有地の収益等を充てているが、旧時は町内会会計と氏子会会計とを別個のものとしていたが、昭和一八年三月限りをもつて両会計を併合し、現在は町内会会計だけで経理している。

二、別紙目録記載の土地はもと名古屋市南区(現在中川区)東起町地内の土地所有者全員の共有物であつて、その管理処分の権限は同町内に一町歩以上の土地を所有する者をもつて構成される地主会に一任されていた。

地主会はその協議によつて本件土地を賃貸、小作に出す等の利用をし、それによつて得た収益は町内会の氏子会計に寄付をし、原告町内会はこれをもつて白山神社の社殿、境内地の維持、管理の費用、町内集会場、火の見櫓等公共施設の維持管理の費用にあてることが、明治の頃から継続して実施されていた。

ところが大正末期名古屋市南部地区一帯に発生した大規模な小作争議の際、別紙目録記載の土地に対する地主会の管理のしかたにも不明朗或いは不公正な点があるという紛議が発生した。そこで右争議が円満に解決した昭和四年六月頃、別紙目録記載の土地の管理を公正にするため、右土地は地主会から町内会に贈与され、原告町内会の所有となり、昭和五年以降は本件土地のうち耕作可能な土地について耕作者の決定、耕作料の額の決定等はすべて原告町内会において実施して現在に至つたものである。

右贈与のなされた時には、被告の先代服部絹太郎は右地主会を脱退していた。なお右贈与後地主会は解散し、爾後地主会としてはなんらの行事もしたことはない。

三、地主会は大正一一年二月頃の総会において左記一〇名の者を別紙目録記載の土地の管理者に選任し、管理規約を定めるとともに、その管理の方法として、同年三月一三日左記一〇名の者の共有名義に登記をした。

服部絹太郎、西垣信太郎、服部祐次郎、服部周次部、前田久松、岩室勲、服部胸三郎、前田鶴太郎、西垣孫七、前田丈太郎。

ところがその後右共有名義人の大部分が死亡し、その分については相続人が共有名義人になつている。現在の共有名義人は左の一〇名である。

服部勝正、西垣善一郎、服部孝一、服部高芳、前田一志男、岩室則夫、服部民太郎、前田鶴太郎、西垣庄次郎、前田秋次郎。

四  近時白山神社の社殿および町内公民館の腐朽が著しいので、共同所有地である本件土地の一部を売却し、その売得金を以て右公民館等の修復をしようという議が提案され、右共有名義人(管理者)が再三に亘つて協議したが、被告一名のみが反対し、若し売買の話が成立しても所有権移転登記手続に協力しないという態度を示している。

五、よつて原告は昭和四四年九月三〇日臨時総会を開催し、本件土地が原告の総有であることを再確認すると共に、右土地の一部を処分する為、特別委員会を設置することにした。

そして右特別委員会が奔走した結果、買受希望者との間に売買の話が纏りかけているのであるが、被告が登記手続に協力しない虞れがあるので、未だ売買契約は締結されるに至つていない状態である。

以上の次第につき請求の趣旨どおりの判決を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、別紙目録記載の土地につき原告主張の如き登記がなされていること、被告が右土地の共有者の一人であること、および右土地の収益を右土地の共有者会から直接に町内会の氏子会計に寄付していることはいずれも認めるが、その余の原告主張事実は全部否認する。原告主張の地主会と本件土地の共有者会とは別個のものであり、本件土地の共有者会が地主会の支配を受けることはない。本件土地の収益の処分権を地主会に一任したことはない。本件土地の処分は共有者会全員の同意を要するところ、被告の先代服部絹太郎および被告は未だかつて贈与に同意したことはないから、原告主張の贈与は成立しない。又原告は法人ではないから、本件土地の所有権を取得することはできない、と述べた。(証拠関係)<略>

理由

一<証拠>を総合すれば、原告は名古屋市中川区東起町の居住者全員を以て組織し、その意思決定機関として町内会総会を、執行機関として町内会長、同副会長等を有する権利能力なき社団であることが認められる。

二<証拠>を総合すれば次の事実が認められる。

(一)  別紙目録記載の土地は通称お宮地と呼ばれ、東起町の氏神白山神社の経費を捻出するため、東起町に居住する土地所有者が協力して出捐した土地であつて、東起町内の土地所有者の共有になつていた。そして登記簿上は右土地共有者の代表者の共有名義に登記されていた。(但し未登記のものもあつた)。

(二)  ところが大正一一年二月一〇日、右土地共有者の協議により土地管理に関し新たに規約を受け、右土地共有者中東起町内に一町一反歩以上の土地を所有する者が右土地の管理人となり且つ共有名義人として登記することになつた。その時右規約によつて本件土地の管理人(登記簿上の共有名義人)になつたのが、原告主張の服部絹太郎外九名であり、この管理人(共有名義人)の一団を地主会と称していた。

その後右管理人の中に死亡するものがあり、その分については相続人が先代管理人の権利を承継したので、現在でも登記簿上の共有名義人は一〇名であり、被告もその一人である。

(三)  昭和四年頃東起町における小作争議が解決した機会に本件土地は土地共有者から東起町町内会に寄付せられ、爾来町内会役員が本件土地を管理するようになつた。そして右土地から上る収益はすべて東起町町内会の収入となり、昭和二四年頃からは会計も町内会計と氏子会計とを一本となし、本件土地から上る収益は白山神社の経費のみならず東起町全体の費用に使われることになつた。そして本件土地にかかる公租公課は東起町町内会の会計から支払われた。

(四)  ところが昭和四三年頃本件土地の一部を売却して、白山神社や公会堂の改築費にあてようという案が提出されたところ、登記簿上の共有名義人の一人である被告がこれに同意しなかつたので、昭和四四年九月三〇日東起町町内会は臨時総会を開き、本件土地が東起町町内会の総有であることを確認し、且つ本件土地の一部を売却することを決議した。

被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。

三以上認定の事実によれば、本件土地は東起町町内会の総有であること、右土地の登記簿上の共有名義人は、右町内会の機関として登記簿上共有名義人となつているものであつて、実体法上所有権を有するものではないことが、それぞれ認められる。してみれば、東起町町内会の総会において本件土地を処分することを決議した場合には、共有名義人は町内会長の指示に従い、右処分の目的を達成するために必要な登記手続をなすべき義務があるものというべきである。

四よつて本件土地が原告の総有であること、および原告が右土地を処分した場合には、被告がその処に即応する登記手続をなすべき義務があることの確認を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(松本重美)

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